「冷奴に目覚める」の巻

07gomigohou01豆腐は冷奴に限る。居酒屋でともに飲んでいた友人が言った。味や香り、食感がよく分かるのだと、冷奴を頬張りご満悦である。それなら湯豆腐だって似たようなものじゃないのかとやり返すと、冷たいものは冷たいまま食うから旨いのだときっぱり。自分のことを根っからの冷奴党とまで言い出したのはいいが、どうにも始末に終えないのは、実は自分、冷奴が苦手だったからだ。

麻婆豆腐や煎り豆腐は好物だが、冷たいままのが苦手。問題はその食べ方にある。ネギにカツオ節、おろし生姜などを盛り醤油をかけるのが一般的と思うが、それだと味に華がないというか、ただしょっぱく短調な感じがして飽きてしまうのだ。

折しも健康について注意が必要な年頃でもある。あれやこれやの摂り過ぎを気にするなら冷奴が一番。何しろ栄養豊富で低カロリー。その上うまいと来れば、酒を嗜むお前さんには冷奴が一石二鳥の肴じゃないか。

冷奴党がそう勧めるのだと、後日、家でそのことを話すと、連れはこんなのはいかがと「ネギ塩ヤッコ」なる冷奴を拵えてくれた。
初めて見る冷奴である。酒好きが高じて、肴は自分の手で色々と拵えてきたが、冷奴は対象外だ。
みじん切りにしたネギを塩で揉みゴマ油を加えたのを豆腐に乗せたという。なるほど、焼肉にもそういうのがあるが、豆腐に応用したという訳だねと食べてみれば、これがなかなか美味しい。ごま油と豆腐の相性、加えて塩揉みネギが良い。同じネギを使うにしても、単なる薬味とは仕事が違うようで、ネギの鮮烈な風味のあとから伝わる豆腐の甘味、隠れていたかすかな苦味さえよく分かる。とにかく、豆腐が旨い。

以来、我が晩酌にはしばしば冷奴が登場するようになった。連れの指南で、香草と天かすに天つゆ、ほぐした明太子にラー油、ザーサイを刻んでオリーブオイルなど、新たな冷奴を体験。さらには、もっと面白いアレンジはないかと、あれこれ試作に勤しんでいるところである。

次第に、興味は豆腐そのものにも向き、旨そうな豆腐を探すという楽しみも増えた。年を取らねば分からない味があると聞くが、自分には豆腐がそれか。

不思議なもので、それまで好まなかった鰹節にネギというのも悪くはないなと心境の変化もあったりで、冷奴党に入門してもいいかなと思うこの頃でもある。