品格の差

生きるの大好き冬のはじめが春に似て 池田 澄子

仏壇へ小春日とどき猫欠伸 侘助

12room01

運転が乱暴だとか遠回りされたとか、車内が汚いとか臭いとか。会社・協会・運輸局に寄せられるタクシーへの苦情は様々です。先日『あさひかわ新聞』の記事に載ったのは「無言タクシー」。お客さんが行先を告げても無言、道中も無言、到着して支払いをしても勿論無言だったとのこと。まるで修行中の禅僧のようですが、この運転手さん、勇気がありますね。
私とて、奥さんに七面倒くさいことを頼まれたり、前夜の行動を追及されたりしたときは無言で通しますが、内心ドキドキしています。いつ背後から首を絞められたり、ど突かれたりするかわかりませんからね。勇気があるなあ。
運転手が無言なのには概ね四つの理由が考えられます。
・ 口内炎で口の中が腫れている
・ 大福がノドにつかえている
・ 粉薬を飲んだばかり
・ 最初から口をきくつもりがない
三番目は私も口に入れたばかりの『太田胃散』を乗ってきたお客さんに噴霧しそうになったことがありますが、四番目の人は無言を止めないと思いますね。だってそこには明らかに確固たる意志がはたらいているような気がしますから。どんな意志なのと訊かれても困りますが……。
ただ言えるのは、短い時間でもお客さんには気持ちよくタクシーに乗ってもらいたいということだけです。首相批判ならいくらでも書けるんだけど、同業者には歯切れが悪くなるのも私の品格です。
さてと、ご覧になった方も多いと思いますが、この夏けっこうはまったのがマイケル・サンデル教授の『ハーバード白熱教室』。「殺人に正義はあるか」や「命に値段はつけられるか」など、仮定の例題や実例を学生たちに提示して議論に参加させ、自身の理論を展開しながらも、あくまで議論を闘わせる中から、学生たちにテーマを深く考えさせるという講義手法ですね。NHKの番組を見逃したので、インターネットから入手できた動画を数十時間分見たり、二冊ですけど教授の本も読みました。
私が思ったのはまず、サンデル教授がとてもカッケーってこと。仕立ての良さそうなダークスーツとトラッドなネクタイ、左手をズボンのポケットに入れたまま、鋭くユーモラスなツッコミで学生たちを議論の渦に巻き込んでいく、そんな姿に魅せられました。髪の毛が少しばかり薄いところも私としては好感度三割増でしたね。そして東大で行われた教室編では、英語の発音がネイティブな学生が多いなあと感心しました。さすが東大生!
スイマセンネ、何十時間も哲学の動画を見て感想はそれだけかよって話ですが、所詮私はその程度の人間ですから。私は昔から議論が苦手で、自分の考えを強く主張して相手との関係がギクシャクするくらいなら、黙っていたほうがましと考えてしまう性格です。でも動画を見ながら、サンデル教授がリードする教室だったら自分の意見を堂々と言えそうな気がしました。勿論生粋の日本語でですけど。
年齢は同じなのに、マイバン・ノンデルとマイケル・サンデル。この品格の差は……大きすぎる。(結局このダジャレが言いたかっただけです)