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一次選考通過 『葉っぱのお面』 西 由佳

 川が好きだ。湖よりも海よりも。
 曇り空の下、鉄道橋の袂に腰を下ろし、留まるところを見つけられずに滔々と流れゆく水たちを、私は見送る。
 今日は授業参観だったけれど、ママと一緒に帰る気にはなれなかった。美人で明るいママはクラスの母親の中でも断トツだ。――お父さん似なのね。今まで幾度となく投げ掛けられた言葉は、私の内に澱のようにどろりと溜まり、目の前の流れのように去ってはいかない。
 ふと、視線を感じて顔を向けると、人が居た。大人だけれどとても小さな人。小さい頃ママが読んでくれた絵本に出てきたコロボックルによく似てる。
 「おや、寄り道ですか」。傍らのランドセルに目をやったお爺さんの柔和な目。安全な人のようだ。少し離れて静かに腰を下ろした小さな人は、手ごろな葉を優雅に一枚拾い上げていじっている。よしよしという呟きと共に広げられた葉には穴が四つ。小さな顔にぴったりの大きさだ。
 「素適なお面ですね」。あながち社交辞令というわけでもない。一瞬で素顔を覆い尽くす緑の能面に心惹かれたのだ。小さな人に倣い、自分の顔ほどの葉を見つけ穴をくり抜く。顔に当ててみると、目も鼻も口も寸分違わぬ位置にあった。
 「上等なオモテが出来ましたね。溜まりで見て御覧なさい」。勧められるまま水溜まりを覗き込むと、誰だか分からない私が暗く映っている。面の下で笑ったり怒ったりしてみたが、水鏡に映る顔はどこまでも無表情だった。
 夢中になっていたのか、列車が橋を通過する轟音で我に返ったが、顔から面を取ろうとした刹那、焦りと恐怖がせり上がってきた。剥がれない。葉の面が顔に張り付いて破ることすら出来ない。狭い視界で小さな人を探したがどこにも居ない。いつしか、サーッという音と共に雨が降り出し、私は立ち尽くした。
 不意に、後方でガサガサッと鳴った。誰かが来る。音に背を向けたままがむしゃらに葉に手をかけたが、びくともしない。足音が近づき、鼓動が早鐘のように鳴り響く。見られる――。
 「よう。何してんだ」。背中で聞き覚えのある声を聞いた途端、あれだけ張り付いていた葉がはらはらと落ちた。呆然とする私をよそに「水切りの特訓してたんだ。最高六回!」などと威張っている。お前は…と言いかけて私の足元から穴が四つ開いた葉っぱを拾い上げた。いつの間にか、手の平大の同じ様に穴が開いた葉っぱも持っている。「小人とお面ごっこでもしてたのか」。いつものからかいの口調に返答できず、顔がこわばる。
 と、ヤツはおもむろにポケットから大きめの石を取り出し、私が緑の能面を映していた水溜りに叩きつけ、手にしていた二枚の葉も破り棄てた。「こんなものいらねえだろ、お前は」。視界が涙でぼやける。雨が降っていてよかったと思った。