春に読みたい一冊 人はみんな大切な一人だから。「からすたろう」


その子は、学校の床下に隠れていました。

こども冨貴堂さんにオススメして頂いた
出会いの春に読みたい一冊。
でも、その絵本には
春のふわふわ感ではなく
これから歩き出す人生に、
忘れてはならない大切なことが描かれていました。
子供に…というより、
子供たちを守り育てなくてはいけない大人にこそ
読んでほしい一冊です。

その男の子は、小学校に入学した日、
学校の床下に隠れていました。
先生を怖がって、何も覚えることができません。
クラスの子供たちともお友達になれません。
みんなから「ちび」と呼ばれ
勉強の時間も、ほっておかれ、
休み時間も一人ぼっち。
いつもクラスのしっぽに
ポツンとくっついている、そんな男の子でした。
いつも一人。
だから、一人でも退屈しない方法を、
たくさん覚えました。
天井の模様も、
机のふたもじっとみていると面白い。
窓からは色々なものが見え、
耳を澄ますと、様々な音が聞こえてきます。
そうやって毎日毎日、
休まず学校に通い続けました。

6年生になって、新任の磯部先生との出会いが、
彼を変えていきました。
いえ、変わったのは彼ではなく、
彼を囲む周りが変わったのかもしれません。
磯部先生は、彼の隠れた才能をみつけ、
彼の良い所を認め、
その良さを皆に伝える発表の場を設けてくれました。
そして、その姿を見た子供たちは、
彼をのけ者にしていた行為の愚かさに気付かされます。

この先生は、
作者である八島太郎さんの二人の恩師を
モデルにされているそう。
自分を理解し、認めてくれる人との出会い
それは人生を左右するほどの大きな存在です。
人はみんな、大切な一人。
その子の力を認めてあげること
それがどんなに大切な事か、胸が締め付けられるほど伝わってきました。

八島太郎さんは、日本とアメリカで活躍された絵本作家。
昭和の初め、画家を志し東京美術学校に入学しますが、
軍事教練を拒んで退学処分に。日本プロレタリア美術家同盟に参加し、
風刺漫画などを描き続け何度も投獄されていたとか。
昭和14年に渡米し、日米戦争の渦中に巻き込まれながらも、
芸術への情熱を絶やさず、児童絵本でも名作を残されています。
この方の人生そのものに、
深い物語が秘められているのです。

「からすたろう」は1955年にアメリカで発表され、
アメリカで最も権威ある絵本賞・コルデコット賞次席。
20数年後、日本でも出版され、
絵本にっぽん賞特別賞を受賞されています。

互いを認め合い、尊重し、
慈しみあうこと。
時代がどんなに変わっても、人として大切なことは変わらない。
時代を超えて読み継がれ、
多くを教えてくれる一冊です。

あらためて、絵本の力ってスゴイな!

「からすたろう」表紙写真

『からすたろう』
作/絵 八島太郎
出版社/偕成社
定価/本体価格1800+税

 

児童書専門店(有)絵本屋 こども冨貴堂(取材協力)

住  所/旭川市7条通8丁目買物公園
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旭川市7条通8丁目