一次選考通過 『自分占い』 P.N./和泉 えり
この街は、冬が長い。
鉛色の空模様ばかりで一面銀世界だった景色がようやく色付き始めて、緑が顔を出す前のこの季節が一番清々しいと僕は思う。
妻は、まだ枯れ木の茶色ばかりで何が楽しいの、と言うけれど。
外に出るたび、今日は暖かいとか、今日は肌寒いとか、少しづつ近づく春の気配に一喜一憂できるのも今の季節だけだ。
いつもの朝、通勤道路。
近文駅前から旭西橋まで一直線に伸びる道を、いつものように愛車に妻を乗せて走り抜ける。
左右に並ぶ建物から一枚の絵のように丁度中心に旭岳が見えたら、今日はラッキーデーだ。
「ちょっとは気分が上がった?」と妻が言う。
「ちょっと上がったかも」と僕は答える。
最近は会議ばかりが多くて朝が憂鬱なのは彼女も知っている。
少し離れた薄曇りの朝でも、こんなふうに真っ白な山が山頂までクッキリ見えれば、僕の中での『自分占い』は吉になるのだ。
実は空模様は、ほとんど関係ない。
例えば、家を出てから橋を越えるまで、ずっと信号が青なら小吉。
例えば、対向車に金運上昇の黄色い車があれば中吉。
そんな自分ルールな占いに妻は笑うけれど。
なんていったって、クライマックスは橋の中心、僕のテンションは最高潮に上がる。
「やった!」
朝陽に輝く石狩川の向こうに大雪山系が一切の雲掛かりもなくパノラマで広がっていれば、今日の僕は誰が何と言おうと大吉なんだ。
午前のプレゼンでとちっても、午後にお得意様に叱られたって、僕の気分は下がらない。
僕がそう決めた限り、僕の『自分占い』は絶対だ。
世の中はきっとこんなふうに考え方一つで全てをひっくり返せるんじゃないかと僕は思う。
それにはきっかけが必要だから、他人に笑われても物好きだと言われても気にしない。
だって偶然の景色だけで毎朝気分がちょっとだけでも上がるなら、文句なんかないじゃないか。
日々の仕事に疲れを感じていても、気の乗らない朝を迎えたとしても。
「この道がさ、ずっとずーっと真っ直ぐだったら、あの山の天辺に登れそうな気がしない?」
ラッキーな風景には、僕の空想だって広がる。
「私なら橋の50M上空に青い椅子を置いて、この街を上からゆっくり眺めたいなぁ」
空想話になら妻だってのってくる。
何故青い椅子なのかというと、こんな青空の中なら保護色になるから地上から気づかれないし、50Mなら道行く人の表情も見えるからだそうだ。ちょっと現実的な空想だけど。
こんな「大吉」な日は、お互いが現実に戻る頃には笑顔になれる。
そんな考え方でも、今日はラッキーデーになる。
自分勝手。
でも、楽しい。
明日は雨予報。さすがに澄み渡った山並みは望めそうにないけど。
僕と妻の『自分占い』は日々進化して毎日をラッキーデーに変えていくのだ。