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一次選考通過 『涙と仲間と絆と』 品川 美加子

「この学校に入って本当に良かった」。
 卒業間近の今この時、息子が心から「良かった」と思えることは、親として本当にありがたいと思う。

 甲子園に行きたくて、オレはこの学校に入った。練習は厳しいけれど仲間と頑張ってきた。残るは最後の夏。この仲間となら、甲子園への切符を掴めると信じている。
 そして、メンバー発表の日。一番から十八番までの中に中にオレの名前はなかった。

 家にたどり着くまではどうにか堪えた。でも、家に入った途端に座り込んで号泣した。泣いて泣いて、両親が帰ってくるまでに涙をすべて流し尽くしてしまおう。今まで一生懸命応援してくれた両親に涙は見せられない。
 その日、両親は何も聞かずいつもどおりに接してくれた。
 明日までに気持ちを切り替える。メンバーたちのために最強の応援が出来るように。スタンドからの熱い思いが届くように。

 数日後、大会が始まった。メンバーはグラウンドを走り、投げ、打った。オレはスタンドから声援を送った。オレたちの背中には「絆」。仲間と作ったTシャツだ。その絆の文字のとおり、オレたちはメンバーのために声を枯らし応援ダンスに汗を流し、メンバーたちはそれに応えるように必死にプレーした。
 そして、オレたちは甲子園への切符を手にした。泣けた。あの時の涙とは違う。熱いものが突き上げてきて涙が止まらない。オレは甲子園でもたぶんスタンドだろう。でもオレは誇りを持ってスタンドから声援を送る。メンバーのために。
 との次の日…。背番号の入れ替えがあり、仲の良いアイツがはずれた。アイツはオレの前だけで泣いた。「辞める。行かない。」上手い言葉が見つからない。悔しい気持ちは痛いほどわかる。でも自分で乗り越えなきゃならない。だからオレの前では号泣すればいいい。
 翌日、アイツは練習に来て笑顔で言った。
「応援のダンスを教えてくれ」

 甲子園でアイツもオレも思いっきり踊り声援を送った。メンバーはそれに応えるように戦った。結果延長戦で負けたけど、スタンドの観客は立ち上がり暖かい拍手をくださった。オレはその拍手にまた泣けた。

 甲子園から戻ってから、アイツはオレの両親に頭を下げた。
「今まで支えていただき、ありがとうございました」
 なんだかアイツが格好良く見えた。

 息子にとって仲間と過ごした三年間は一番の宝物だ。絆で繋がった仲間との最後の夏は、息子の中で一生キラめいているのだろう。