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一次選考通過 『選択道』 坂本 晴奈

 例えば、今日会社を休んだら。
 例えば、今から飲みに行ったら。
 例えば、最低限の荷物を詰めて空港に向かったら。

 なんて、まだ夢と現実の境目がわからないほどにぼーっとしている頭で考えてみたけど、結局私はいつも通りうるさい目覚ましを止めてベッドから起き上がる。
 いつも早く起きられない朝。
 のそのそ起きて顔を洗い髪を整え、今日も少し焦がしたパンと野菜ジュースを流し込み、パタパタと朝の準備。
 会社が嫌いなわけじゃない。仕事が嫌なわけでもない。
 人間関係も良好だし、お給料も満足で不景気を嘆いてもいない。
 ただ、いつもこの頭が考えてしまう。
 今選んだ道ではない方向へ進んでみたら何かが変わるのだろうか、と。
 どの道が正しくて、どの道が間違っているのか、と。
 世界を変えるわけでもない、ほんの小さな選択肢。
 今不幸せなわけじゃないけど私のとびきりの幸せはどの道に進めばあるのだろうか。
 地図のない大人の世界に幸せ看板が立ててあれば良いのに。

 小さい頃は無限に広がっていた道も、大人になると無難な方を選んでいる自分がいて「ああ、これが大人になるってことなんだ」なんてまだまだ子供の頭でわかったような気になって。
 上司は「二十代なんてあっという間に終わっちゃうんだから思いのままに進んでみろよ」と爽やかな笑顔を私に向けて言った。
 その言葉を思い出しながら電車に揺られ、じゃあ彼の二十代は思いのままに生きたのか、それともそう生きられなかったから私に助言をくれたのか、三十分そんな事を考えながら駅に着く。
 音を鳴らしてヒールで歩くカッコ良い大人の女性たちに憧れたあの頃の私は、今の私の姿を見てあこがれの自分になれた!と喜んでくれるのだろうか。

 「おはよう」

 あ、やっぱり。やっぱり今日も会社へ来て良かった。
 飲みに行かなくて、空港へ行かなくて良かった。
 上司の笑顔の「おはよう」に私の道は間違っていなかったと気付かされる。
 彼の声、彼の笑い皺、朝の澄んだ空気に柔らかで暖かい日差し。

 「あ、おはようございます。今日もカッコ良くて素適ですね」
 「朝から何言ってんだ、おじさんをからかうな」
 「からかってなんかないですってば。いつも本心です」
 「はいはい。ありがとう」

 どの道の選択肢が彼の心に繋がるのだろうか。
 結局何を考えていても最後に考えてしまうのはどうしても彼の事なんだ。
 私の選んだ進む道に、私と彼の幸せがあれば良いななんて、気持ち悪いことを考えている自分が実はそんなに嫌いじゃない。
 やっぱり私には世界が輝いて見えるのだ。