月刊フィットあさひかわは、旭川市・近郊町市村の気になる情報を取り上げてお届けします!

一次選考通過 『はんぶんこ』 梅村 由賀

 カイくんが、眠たげな目をこすりこすり起きてきました。

 「おはよう、カイくん。今朝は目玉焼きだよ。ママの半分あげる」
 ママはフォークで目玉焼きを半分に切りました。
 「はんぶん?」
 「そう。はんぶんこ」
 「はんぶんこ?」
 「うん。目玉焼き、はんぶんこ」
 「はんぶんこ!」
 カイくん、はんぶんこが気に入ったみたいです。

 窓の外は風が吹き荒れ、雪がちりぢりに降っています。
 大粒の雪が、窓の方へ寄ってきたかと思うと、次の瞬間には強い風にさらわれて行きます。そして、あっという間に遠くへ運び去られて行くのです。

 こんな日はおうちの中で遊びます。
 カイくん、小さな木のまな板の上に、木でできたおもちゃのバナナをのせました。そして、まん中のマジックテープでくっついているところを、木の包丁でザクッと切りました。
 カイくん、二ヤーっと笑います。
 ほかにもいっぱいあります。トマト、カブ、お魚、パン、タマゴ……
 「はんぶんこ!はんぶんこ!」
 夢中になって、はんぶんこのおもちゃをたくさん作りました。

 おやつの時間です。
 ママがホットケーキを焼いてくれました。
 カイくん、手でさわると、アッチッチ。あわてて手をはなします。
 少しまって、冷めてから、手でホットケーキをちぎりました。
 「はんぶんこ!」
 半分になったホットケーキを両手でもって、うれしそうにかぶりつきました。
 バターで手がベタベタです。
 でも、全部食べました。

 夕方になりました。
 ママはカイくんのおもちゃを片づけています。
 カイくん、ママの背中にしがみついて、ワーワー泣きじゃくります。
 いままで機嫌よかったのにね。
 これではおもちゃが片付きません。
 
 ママはおこりたいのをがまんして、大きく息を吸いました。
 そして両腕を広げて、
 「おいで。おんぶ」
 といいました。
 でも、カイくんはまだ泣いています。
 ママは、
 「さんぽ、行こう」
 といいますが、カイくんはまだ泣いています。
 「ほら、おんぶでさんぽだよ」
 ママは、おんぶひもをカイくんに見せながらいいました。
 「おんぶさんぽ?」
 カイくんが泣きやみました。
 「そう。おんぶさんぽ」
 ママは笑ってうなづきました。
 「おんぶさんぽ!」
 やっと、カイくんが笑いました。
 ママの背中におんぶされて、ようやくカイくん一安心です。
 カイくん、つかれていたんだね。

 吹き荒れていた風はやんで、大地に静けさが戻っていました。時折、降りそびれていた雪が、はら、はらと落ちてきます。
 神々の山、大雪山が白い布団をまとって眠っているようです。
 そんな大地を、まあるいお月様が明るく照らしていました。
 「ママ、あれ、はんぶんこ!」
 カイくんがお月様を指差していいました。
 「え!お月様をはんぶんこ?」
 驚きながら、ママは笑ってしまいました。

 ママが少し歩いたら、カイくんは眠ってしまいました。
 夢の中で、まんまるお月様を半分に切っているのかもしれません。
 今日は「はんぶんこ」をおぼえたね。
 おつかれさま、カイくん。