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一次選考通過 『八年目の春』 佐久間 尚子

 三月というのに、朝、カーテンを開けるとブリザード状の雪が荒れ狂っている。「あ、今日もか…」。いささかうんざりした顔で、じいちゃんとばばはソファに腰を下した。毎日毎日除雪にあけくれる。朝食後、お互い薬を飲み、小降りになるのを待ち武装して外に出る。玄関フードには雪がべったりとはりつき、階段は深く深くうづもれている。よたよたしながらママさんダンプをおしている姿はみていてさぞかし滑稽だろう。じいちゃんと、ばばの力は二人で一人前?いや半人前かもしれない。ようやく終わって部屋にはいると、すぐ按摩器のとりあいになる。二人とも腰が痛くて痛くて我慢できない。旭川は地震も台風も少なく本当に住みよい町であるが大雪だけは年とともにこたえる。そんな時、娘から検査結果、異常なし!のメールがはいった。
 「本当?おめでとうー」。すぐ返信した。うれしくて、うれしくて今までの疲れや腰の痛みがどこかへふっとんでしまった。じいちゃんと、ばばは手をとりあって喜んだ。
 思いおこせば二人の孫が小学四年生と三年生の時、娘が発病した。頭が真っ白になり、何も考えられなくなったその時、三年生の女の子が「お母さんでなく、ばばがなればよかったのに」。なにげなく言った。ぎょっとした。
 「そうだね、ばばは年をとっているし、お母さんはこれからあなた達を育てていかなければならないから、ばばがなったほうがよかったね」。ようやく答えたような気がする。孫は悪気はなく、心の底からそう思ったのだろう。
 孫達は高校生になり、勉強(?)と部活動に励んでいる。「昔、ばばにこう言ったんだよ。おぼえている?」。聞くと「そんな薄情なこといったかな?」とケロリとしていた。
 娘も元気で夫婦プラス、じいちゃん、ばばで孫の野球応援に夢中である。昨年は全道大会にも出場でき円山球場まで出かけた。ハラハラ、ドキドキしながら目一杯パワーをもらい、めちゃめちゃ楽しませてもらった。
 今年は最後である。ばばの二番目の願いは孫が毎回試合にでられることと、ヒットを一本でも多く打ちチームに貢献し、よい想い出づくりができればこんなうれしいことはない。じいちゃんはそんなにうまくはいかないというが、先日、練習試合で初ホームランを打ったと娘からメールがきた。うれしくて天にも昇る気持ちだった。早速、夜「初ホームランおめでとう」のメールをしたが、返信は「ありがとう」のひとことだった。北国のおそい春とともに娘夫婦、じいちゃんとばばの応援行脚がはじまる。
 なんといっても一番の願いは娘が元気で九年目、十年目、これからずっと永久に春をむかえることである。
 それが叶うなら、じいちゃんもばばも大雪ぐらい我慢しよう。