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一次選考通過 『小さな抵抗を母に…』 崎松 美恵子

 先日私宛に一通の手紙が届いた。
 茶封筒の裏にはある施設名と、幼い頃に私を祖父母に預け、そのまま行方を眩ました母の名前が書かれていた。
 あまりに突然の事で気が動転してしまい。とても手紙の内容など読めず、上着のポケットにしまってしまった。
 しばらくし、心を落ち着かせる為プラタナス並木の中へ散策に向かった。初夏の陽射しは今も私には正直あまり心地の良い感じではない。深い傷を隠しながら今まで生きてきた。私には一生忘れない心の悲しい記憶、それが甦っているせいかも知れない。
 どのくらい歩いたのだろうか?池の側にあるベンチに腰を落ち着かせ、大きく大きく深呼吸をしてみた。
 ポケットから手紙を取り出し、そっと目を向け読んでみた。
 「突然のお手紙で、大変驚かれた事をお詫び申し上げます。貴方のお母様に関して大切なお話をしなくてはならず、一刻を急ぐ事ですのでお母様に変わり筆を取らせて頂きます事、ご理解下さい。お母様は現在重大な病に伏し、身寄りの無いとの事でしたので現在施設療養所にております。ご家族の方は貴方様ともう一人娘さんが居らっしゃる事でしたが、お母様と妹さんは、数年前より絶縁状態との事で、当方でも色々と手をつくしましたが、全く連絡も取れず最後に貴方様の元にたどり着きました。
 お母様の病状は深刻で幾ばくも有りません。本人の願いとして、一目お会いして今までの全てを謝りお詫びしたく、最後のお願いとして和が娘達を探し出してほしいとの切実な願いを受けた次第です」。
 今更随分自由に生きた母と会うなんて、と思いながら反面会ったら良いのか?と迷う自分がもう一人。後悔しないかと何度も何度も頭によぎりながら、どちらにしても後悔になる、会えば憎しみも沸いてくるだろう。反面、長い間出せなかった答えが見つかる気もする。平穏に何事も無かったと思う日々を願う自分も居る。
 あれから幾日が過ぎたのだろうか?
 母の終末を知った。
 やっと心の中の荷がふと軽くなった。
 結局私は母の想いを受け入れ、許す事すらも出来なかった。心の中は一切の悔いはない。
 この世界に生を授けてもらった母に、最初で最後の抵抗を……。