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若葉賞 『青い宝石』 中野 由唯

 ~彼女は奇跡の塊だから、もしかすると、青い薔薇なのかもしれない~今はそう思うんだ。
 僕は、書店である一冊の本と出会った。その名は「奇跡」。作者は、僕と同名の「有川隼人」。あらすじによると、青い瞳の男の子が主人公だ。僕は、高校生の頃に会った「琴吹奏」という女の子を思い出した。彼女も青い瞳だったからだ。「これは運命かな」なんて思って、買って帰ることにした。
 主人公の男の子は、一日にあった出来事などを次の日まで覚えていられないという記憶障害がある。そのため、メモ帳で過去の自分と今の自分をつないでいる。
 そして、高校生になった彼は、ある女の子と出会う。彼女は、彼に「あなたの青い瞳、きれいだね。宝石みたい」そう言うのだ。彼は明日になれば、全てを忘れてしまう自分に恐怖を感じる。
 だが、次の日、学校に行くと自分に起こった変化に気づく。彼女のことを覚えていたのだ。そのときから彼は彼女だけを信用するようになる。自分に起こった奇跡は、運命なのだと考えるのだ。
 その後、彼女との幸せな日々が続き、冬になる。休日のある日、妹に「ペンギンのお散歩」が見たいとせがまれ、動物園に行く。そこで彼女に会うのだ。そして、動物を見てまわりながら、沢山の話をする。例えば、自分は作家になりたいとか、青い薔薇が好きだとか。あと、青い薔薇の花言葉は、「有り得ないこと」「奇跡」そして、「神の祝福」だということも。彼女の笑顔で彼は、一番幸せな日だと感じた。
 しかし、その日の夜、両親から引っ越しの話をされる。彼は抵抗も出来ず、引っ越しが決定してしまう。
 引っ越しの日、彼女は二人の目印にと、青い薔薇のネックレスを渡す。彼は、ネックレスを手離さないことを約束して別れを告げる。
 ここで物語は終わった。僕は驚きを隠せなかった。奏との思い出にあまりにも似ていたためだ。異なるのは、性別と記憶障害だけだった。もし、奏が主人公と同じ記憶障害だったなら…。じゃあ、何のためにこの本を書いたのか。僕に会いたいと伝えるため?
 あの本を読んでから、青い薔薇を見たくなった。何かわかるかもしれない、そう思ったから。花屋に行くと、店員にないと言われてしまった。仕方なく帰ろうとしたとき、ある人の姿が目に留まった。腰まで伸びたストレートの黒髪。華奢な小さい身体。宝石のように甘くきらめく、青い瞳。それに、首に光る青い薔薇のネックレス。彼女も僕に気づいたのだろう。視線がからみ合う。彼女は少し口元をほころばせ、「隼人くん?」と朗らかなやさしい声でささやいた。