発達障害母

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女性は出産したら、その時から「母」になったとふつう思われていますが、実はそうではありません。子を産んだだけではまだ母になっていないのです。

女性の脳(心)には母になるためのすべてのシステム(仕組み)が生まれながらに備わっていますが、それを起動するスイッチが入らないとそのシステムは作動しません。すなわち母性愛が発生してこないのです。

システムの細かい部分を起動するスイッチは無数に用意されていて、妊娠中からずっと、その時期その時期で必要なシステムに毎日、毎時、毎分、毎秒、スイッチが入り、その都度母性愛の質が広く深くなっていきます。

スイッチが入っていく状況は出産直後からだんだん回数が多くなり、赤ちゃんの発達につれてさらに増えていきます。一番多い時期は赤ちゃんの生後六週から六ヶ月まで、すなわちインプリンティングの時期。次が三歳までのアタッチメントの時期です。

もうおわかりでしょう。スイッチを入れるのは自分の赤ちゃんなのです。すなわち赤ちゃんが自分を生んでくれた女性を母にするのです(連載第三十四回参照)。だから育児の途中で母と子が離ればなれになって育児に空白が生ずると、それはもちろん赤ちゃんの発達に障害となりますが(連載第五十九回参照)、それだけではなく、母親もその空白の間に赤ちゃんから発せられた母になるためのいくつかのスイッチが入らないために、母になりきらない不完全な母、いわば発達障害母になるおそれがあるのです。

先月号で子供を託児所や保育所に預けるのは「母と子の人生の一部を空白にする」ことだと申しました。子供についてはわかるけれども、なぜ母の人生まで空白になるのか疑問に思われた読者もおられると思いますが、理由はこういうことなのです。

しかしさまざまな事情から、子供を保育所にあずけなければならない場合ももちろんあります。その時、特に子供が三歳未満の場合は最も大事な時期なので、厳重な注意が必要です。母親は子供から愛着対象だと認識されているかどうか(本当に親だと思われているか)を、毎回点検しなければなりません。
この時の注意点は、夕方に子供を受け取りに行って再会した時に、子供が嬉しそうな顔をするかどうかをよく観察することです。明らかに嬉しい表情であれば、あまり心配はないと思っていいのですが、そうでない時、たとえば表情を変えないとか、親を無視する、視線を合わせない、などの態度が出現した場合には、家に帰ったらまず何よりも先にしっかり抱っこをして、子供の気が済むまで遊んでやらなければなりません。その日の母子関係の空白を挽回しなければならないからです。

ただしこの時、いくら心の中で思っていても「お母さんが悪いの、ごめんね」とは絶対に言ってはいけません。それは「私はお前に悪いことをしている」と言っているのと同じだからです。「それならなぜ止めないんだ」ということになるでしょう。

いずれにしてもこの失われた時間の母子関係の空白をうまく挽回できるかどうかは、「子供からの発信」に対して母親がどれぐらい敏感に反応できるか、つまり母親が赤ちゃんと同時進行して発達しているか、すなわち母になりきっているか、にかかっています。