逃げる女

柔らかさBの鉛筆好み処暑 岡本彦弥

針の跳ぶエディット・ピアフ胡桃落つ 侘助

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アテ・シロタ・ゴードン著『1945年のクリスマス』は、日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝です。このマッカーサー草案は、昭和二十一年二月四日(月)朝から十二日(火)夜にかけて作られました。それぞれ法律学・政治学・財政学などのエキスパート二十五人が作成にあたり、完成した九十二条のうち人権条項は実に三十一条を占めていました。この人権条項を担当した三人のうちの一人が著者です。
彼らは、法律によって様々な制限をうける臣民の権利(民権)はあっても、人権という日本語がなく、男尊女卑の国だった日本に、新しい憲法による国民主権と戦争の放棄、男女平等と基本的人権を確立した理想の国家を作ることを夢見て、不眠不休の作業を続けました。
最高権力者だったマッカーサーの強力なプッシュが、「押しつけられた憲法」観の所以ですが、当のアメリカは、現在も「男女平等」を書いた修正案が通らず、憲法上は「男女平等」ではありません。憲法についてちょっと考えている人はご一読を。
アベちゃんはもう読んだかな?

さてと、こんな商売をしていると、時折へぇ~と思うような人に出会います。
朝、マルカツの横に車を止めていると、三十才くらいの若い女性が乗ってきました。「引越しをしたいんですけど、手伝ってもらえませんか?」って。私はタクシーで引越しはちょっと無理ではと思ったのですが、彼女が「家具はないですし、布団が一組と衣類がちょっと、あとは猫が二匹です」というものだから引受けることにしました。
繁華街のビルの一室に彼女は住んでいました。エレベータの前にはすでにそれらしき段ボール箱とビニール袋が積んであり、上手に積めばほんとに一回で終わる量でした。「あとは布団と猫だけなんで、ちょっと待っててくださいね」。彼女がエレベータで上がって行ったので、私は荷物を助手席・トランク・後部座席の順に運び入れ、なんとか残りの布団と猫二匹と人がひとり乗っても大丈夫なスペースを作りました。

彼女が引越しを手伝ってほしいと車に乗ってきてから、橋を二つ越えた街の古いアパートに荷物を運び入れ、タクシー料金とお礼だという三千円を私が少し恐縮して受けとるまでに要した時間は三十分弱でした。
少しばかりの衣類と本、そして大量の『東京新聞』と猫二匹を抱えて引越しをした彼女。彼女が去ったビルの一室には、大型のテレビも冷蔵庫もダブルベッドもあり、別の女の所で遊び呆けて帰宅した男が、洗面所の鏡に真っ赤な口紅で殴り書きされた「クタバレ、ロクデナシ」の文字を見て悄然としている姿を、私は想像しました。そしてそれはまさに昔の私の姿そのものでした。
私は彼女がいま、二匹の猫との平穏な日々をおくっていることを切に願っています。