授乳にかかわる諸問題②
母の乳頭とゴム乳首の違い
赤ちゃんの身体に刷り込まれるものに、もう一つ大事なことがあります。それは乳頭(乳首)の問題です。
赤ちゃんが生まれて初めてくわえたものがゴム製の乳首であった場合には、赤ちゃんはそれを自分専用の乳頭だと思い込むので、その後になって実母の乳頭を含ませようとしても、〝これはオレのじゃない〝という反応を起こし、その後の授乳がやりづらくなることがあります。
したがって赤ちゃんが初めて母の乳頭を含むよりも先に、哺乳ビンのゴム乳首をくわえさせてはいけません。中身が粉ミルクではなく単なるブドウ糖液であっても、ゴム乳首であることが問題なのです。
一方、母乳で育っている赤ちゃんが四ヶ月ぐらいになったとき、果汁などを哺乳ビンで飲ませようとすると、ゴム乳首を嫌がってどうしても飲もうとしないことがあります。もちろん〝これはオレのじゃない〟というわけですが、こういうのはとても好ましいことなのです。母の乳頭のインプリンティングがうまくいっている証拠だからです。こういうときは赤ちゃんの心が健やかに育っているのですから、そのことに感謝しながら気ながにスプーンで飲ませるようにしましょう。
ゴム乳首の孔が大きいと無気力な人間を作る
赤ちゃんが〝あぁ、おなかが一ぱいになった〟という気持ち、つまり満腹感は単に胃袋がお乳で一ぱいになっただけでは起こりません。胃袋がお乳で一ぱいになると同時に、お乳を一所懸命に吸啜したことによるホッペの筋肉の疲労がないと、赤ちゃんは満腹になった気がしないものなのです。
粉ミルクで育てる場合、使っているゴム乳首の孔が大きいと、赤ちゃんはそれほど強く吸わなくてもお乳はどんどん出てきます。そうすると赤ちゃんの胃袋はもう一ぱいになっているのに、ホッペの筋肉はまだ疲れていないという状態が生じます。このようなとき、赤ちゃんは実際にはもう満腹になっているのに口だけはまだお乳を吸う動作を続けることがよくあります。
赤ちゃんがもっと飲みたいような動作をしているのを見ると、私たちは赤ちゃんのおなかはまだ一ぱいになってはいないのだと思い、ついつい必要以上に飲ませてしまいます。
親というものは赤ちゃんがグイグイ飲んで太ってくると、それが立派に見えてとてもうれしいのですが、太りすぎると将来の肥満につながる恐れがあり、しかも成長期の肥満は後になって何かと厄介な問題を引き起こしてくるので厳重な注意が必要です。赤ちゃんの体重はそのときの身長に見合った体重よりも重くならないように注意しましょう。
さらにゴム乳首の孔が大きいと、赤ちゃんは努力しなくても楽にお乳が飲めます。これは『食物を手に入れるには大変な苦労が必要なのだという、あらゆる動物の生存に基本的に必要な心構えを作る機会を失わせることになり、その赤ちゃんは将来無気力な人間になる』と動物行動学者のK・ローレンツが言っています。肥満にしても無気力にしても、いずれも重大なことなので、粉ミルクで育てるときは、乳首の孔は一番小さいのを使いましょう。