授乳にかかわる諸問題③
母乳が不足していると思ったら、すぐ混合栄養にするのが現在では常識のようになっていますが、そうするとさらに母乳の出が悪くなります。理由は、母の乳頭からお乳を飲む時とゴム製の乳首から飲む時とでは、赤ちゃんの唇や舌の使い方がまったく違うからです。
母の乳頭からの飲み方では、赤ちゃんは乳頭を舌の上にのせ、舌をまるめて乳頭をくるむようにします。お乳は乳房の奥から泉のように湧いてくるので吸い取る必要はありません。湧き出てくる圧力を利用して乳頭を少し押すようにして飲みます。
ゴム乳首の場合は私たち大人がストローで液体を吸う時と同じです。赤ちゃんは舌でゴム乳首を上顎と舌の間に固定します。ビンの中身は自然には出てこないので、赤ちゃんは口の中を陰圧にしてビンの中身を吸い取らなければなりません。
このように、母の乳頭の時とゴム乳首の時とでは飲み方がまったく違うのですが、問題はこの二とおりの飲み方を赤ちゃんは使い分けることができないという点です。
その上困ったことには、ゴム乳首の飲み方のほうが赤ちゃんにとってはやりやすいのです。
ここで、母乳と粉ミルクの混合栄養にしたら、どのような経過をたどるのか見てみましょう。初めてゴム乳首を含まされた赤ちゃんは、それまでの母の乳頭の含み方や舌の使い方を「ゴム乳首式」に変えなければなりません。何とかそれができるようになったと思ったら、また母の乳頭を含まされる。赤ちゃんは再びもとの母乳の飲み方に戻さなければならない。ところが母乳の飲み方のほうが難しい。こんなことをくり返しているうちに、赤ちゃんは母乳の飲み方がだんだん下手になっていきます。そうするとここに問題が発生するのです。
人間の乳汁は牛やヤギのように常時乳房の中に溜まっているのではなく、赤ちゃんが乳頭を含んだ時「乳汁製造開始」のスイッチが入るのです。しかし赤ちゃんが「ゴム乳首式」で吸いついた場合は、母体にとってスイッチ・オンにはなりません。そのためお乳の出方が悪くなり、赤ちゃんは母の乳頭を含むのを嫌がるようになる―こういう悪循環になって、最終的には出るはずの乳も出なくなってしまうのです。
ちょっとでもお乳の出方が少なくなると安易に粉ミルクで追加しようとする人が多いようですが、以上の経過でおわかりのとおり、「混合栄養にする」のは「母乳を止める」ことにつながるので、少しぐらい母乳が不足しても、ここは一番、母も子も辛抱することが大切なのです。
だから、母乳で育てている赤ちゃんに砂糖水、果汁などを与える時も、哺乳ビンを使ってはいけません。赤ちゃんの吸啜力を落としてはいけないので、スプーンで与えるようにしましょう。これはいささか面倒くさいことですが、親も子も忍耐して練習すれば、赤ちゃんは数日のうちにスプーンで飲めるようになります。もちろん母乳でも、いったんしぼって出してしまったものはスプーンで飲ませましょう。スプーンを使った場合でも、上手になれば授乳の所要時間は哺乳ビンで飲ませた時とほとんど変わりません。