授乳にかかわる諸問題④
赤ちゃんは母乳で育てましょう
次に掲げるのは、ユニセフとWHOの共同声明として一九八九年、主として後進国向けに出された「母乳育児を成功させるための十ヶ条」です。
一.母乳育児の方針を全ての医療に 関わっている人に、常に知らせること
二.全ての医療従事者に母乳育児をするために必要な知識と技術を 教えること
三.全ての妊婦に母乳の良い点とその 方法をよく知らせること
四.母親が分娩後、三十分以内に母乳を飲ませられるように援助すること
五.母親に授乳の指導を十分にし、も し、赤ちゃんから離れることがあっ ても母乳の分泌を維持する方法を 教えること
六.医学的な必要がないのに母乳以外のもの、水分、糖水、人工乳を与 えないこと
七.母子同室にする。赤ちゃんと母親が一日中二十四時間、一緒にいられるようにすること
八.赤ちゃんが欲しがるときに、欲しがるままの授乳を勧めること
九.母乳を飲んでいる赤ちゃんにゴムの乳首やおしゃぶりを与えないこと
十.母乳育児のための支援グループを作り援助し、退院する母親に、このようなグループを紹介すること
このとおり行っている病院(または施設)なのか、また分娩についてはルボワイエの言っている方法(連載第四十六回「ルボワイエの言う理想的な出産」参照)でやってもらえるのか、この二つをよく調べてから出産する所を決めるのが賢明でしょう。ただ、「母乳で育てよう」という言葉に反対を唱える人は今やいないのですが、しかし現実にはそうなっていない病院や施設が非常に多いのです。
ところで、この十ヶ条は病院や施設に対して出しているもので、これから出産、子育てをやる人のために書かれたものではありません。そのうえ条文の数が多く、しかも逐語訳のために日本語としては読みづらく、実用的ではありません。そのため私は母乳育児の第一人者であった、山内逸郎先生の「山内三・五カ条」をおすすめしています。これをお読みになればたちどころに納得がいきます。
一.出産三十分以内に初回授乳をさせること
二.出産二十四時間以内に七回以上(初回授乳は含まず)飲ませること
三.出産直後からの母子同室、母子同床にすること
三.五 陣痛が起こったら乳管開通操作を始めて、乳管のつまりを取っておくこと
最も大事な「三十分以内の初回授乳」
ユニセフとWHOの共同声明でも第四項で掲げていますが、初回授乳がなぜ三十分以内でなければならないかというと、この時間帯、母体は乳汁を製造する用意が完了しており、作動するためのスイッチが入る、すなわち「赤ちゃんが吸いつくのを待っている」状態にあります。この状態が最も敏感になっているのが「三十分以内」であり、それ以降になると、時間がたつにつれて反応が鈍くなるのです。「乳の出ない母親」は、たいていこの時機を逸したか、または最初から人工栄養を与えたことが原因となっているのです。