授乳にかかわる諸問題⑤
母乳の上手な飲ませ方
よく出る母乳でも飲ませ方がまずいと出方が悪くなることもあるので、上手に母乳を飲ませるやり方を知るのは大切なことです。
生まれてきた赤ちゃんに何の異常もなければ、生後三十分以内に最初の授乳(もちろん母乳)をします。なぜ三十分以内なのかということについては連載第四十七回を参照してください。
赤ちゃんが母の乳頭に吸い着くと、それは乳腺に「乳を出しなさい」というスイッチを入れたことになり、母の身体はそれに呼応してお乳の製造を開始します(連載第九十八、九十九回参照)。そして二日、三日とたつうちに、母のほうも赤ちゃんのほうも、飲ませ、飲むことがだんだん上手になっていきます。
母乳授乳は乳房の中にたまっている乳を飲ませるのではなく、乳房の奥からそのときに泉のように湧いて出てくる乳を飲ませるのですから、片方の乳房が空になってから反対側を飲ませようとしてはいけません。そのようにすると両方の乳房を上手に飲ませることができなくなります。
以下に私が桶谷そとみさんから習った授乳法をお話します。
授乳を開始する時の手順は、まず最初に両方の乳房の上のほうを軽くつまんで持ち上げ、乳房をゆすって振動を与えてから、乳頭を含ませる前に五~六滴ぐらい乳をしぼり出します。それから乳頭を含ませます。こうすることで乳頭がやわらかくなり飲みやすくなるのです。
お乳がとてもよく出る人の場合は、五~六滴ではなく三〇ミリリットルぐらいはしぼって捨ててもよいでしょう。いずれにしても必ず以上の操作をやってから、乳頭を赤ちゃんの口に含ませることが大事です。乳房を取り出すやいなや、何もしないですぐ飲ませるのは感心しません。
次に、どちらの乳房からやるかというと、出にくい、飲ませづらい乳房のほうから先に与えます。五分間ぐらい一気に飲ませたら、そのあと素早く抱きかえて、反対側の出やすい飲ませやすい乳房を含ませ、今度はゆっくりと七分から十分ぐらいかけて飲ませましょう。これで一段落です。
ときにはもう一度湧き出てくることがあります。このとき出にくいほうの乳房にも湧いてくるので、もう一度出にくいほうから飲ませます。そのあと、また同じように出やすいほうも飲ませるのです。こうしていると出にくかったほうの乳房も乳汁分泌が良くなって、両方の乳房とも授乳しやすくなっていきます。できるだけ、この二回目に湧いてくるお乳まで飲ませるようにするといいのです。
赤ちゃんのおなかが一杯になって授乳がすんだら、乳房の中に残っている飲み残しの乳はしぼって捨てること。
そのほか常に乳頭や乳輪部の形に注意して、変形していないかどうかを調べておくことも大切です。赤ちゃんの抱き方に注意して授乳することによって変形を防ぐことができるし、また変形が起こってきたときは抱き方を変えることで変形を治すことができます。以上。
母乳はいつごろまで与えたらいいかというと、日本人の伝統的な育児法としては、赤ちゃんがひとり歩きができるようになるまでですが、もっと後まで与えてもかまいません。