授乳にかかわる諸問題⑥

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人工栄養とは

何らかの理由で母の乳を飲ませることが不可能なときには、やむをえず、ほかの動物の乳を人乳の代わりに赤ちゃんに与えなければなりません。このことを人工栄養といいます。すなわち人工栄養とは人間の乳と同じものを人工的に製造して、それを赤ちゃんに与えているのではないのです。これは大変重要なことなので決して忘れてはいけません。
缶詰になって市販されている粉ミルクは、牛の乳から水分を抜き去って粉状にしたものです。これに人間の子にとっては不足している成分を加えてあります。この粉に水を加えて飲める液体にする操作を調乳といい、調乳すると牛の乳でもなく人の乳でもない白い液体ができ上がります。
そもそも牛の乳は牛の仔を育てるために出てくるものです。従って牛の乳には人間の子にとって不必要なものが含まれていたり、必要なものが不足だったりしています。足りない成分は全部人工的に補うことができるかというと、そうもいかないのです。その代表的なものは病気に対する抵抗力のある物質、すなわち免疫物質で、これはどうにもなりません。誰でも知っていることですが、母乳を飲んでいる赤ちゃんは麻疹(はしか)にかかりません。理由は母乳の中に麻疹に対する免疫物質が含まれているからです。もちろん牛の乳の中にはありません。麻疹は牛の病気ではないので。
余計に含まれている成分の代表的なものがタンパク質とミネラル(無機質)です。タンパク質が人乳の二倍、ミネラルが三倍です(表1)。いまタンパク質の濃さを人乳と同じにしようとして牛の乳を二倍にうすめると、それでもミネラルはまだ濃すぎるし、ミネラルを人乳に合わせようとして三倍にうすめると、今度はタンパク質の濃さが足りなくなり、その上、もともと少なかった成分はさらに少なくなってしまうという、なかなか厄介な問題があるのです。
表1は、いろいろな動物の乳のタンパク質とミネラルの含有量を示したものです。ほかの動物の乳と人乳とではこんなに違うのです。
ウサギを見てみましょう。生まれてからわずか六日で出生時の体重の二倍になっています。ウサギは弱い動物なのでほかの肉食獣に捕まらないようにするためには早く大きくならなければならないからです。そのためにウサギの乳のタンパク質とミネラルの含有量は人乳にくらべて十倍も多いのです。
これに対して人間の子は脳がまだ未熟のままで生まれてくるので、生後一年間というものは歩いたり走ったりという運動機能の発達は後まわしにして、もっぱら脳の発育に力を入れます。そのため人間の乳はこんなにうすい組成になっているのです。

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