授乳にかかわる諸問題⑦
人工栄養で最も重要な留意点
赤ちゃんをやむをえず人工栄養で育てるとき、母親は自分に対して常に言い聞かせておかなければならないことがあります。
生まれてきた赤ちゃんは胎内にいた時から数えてもう十ヶ月もお母さんと付き合っており、生まれた後はお母さんのお乳を飲ませてもらえるものだと信じて出てきたのです。それを今さら人工栄養にするなんて、そこにどんな理由があろうとも、それは母親の一方的な都合でやることです。「人工栄養にしたいのですが、よろしいでしょうか」と赤ちゃんにお伺いして同意を得たわけではないのですから、ゴム乳首を含まされた情けない思いの赤ちゃんに対して、その都度「ごめんね」「お母さんを許してね」とお詫びをしなくてはなりません。これが礼儀というものです。
ここで連載第三十四回「母子一体感が育児の出発点」を参照してください。そこにインプリンティングが不足なく終了するための抜けてはいけない七項目がありますね。その第一項は「赤ちゃんが母の乳首に吸いつき、その乳を飲むこと」です。あとの六項目もそうなのですが、これらは「母子がお互いに離れられない存在」になるための抜けてはいけない動作なのです。
インプリンティングが赤ちゃんの発達に不可欠であることは誰にでもすぐ理解ができるのですが、実はそれと同時に、単に子を産んだだけで、まだ「母」になっていない女性が「母」になっていくためにも不可欠なのです。
女性にはみんな『母性発生システム』が先天的にそなわっているのですが、このシステムはあの七項目を実行しなければスイッチ・オンになりません。したがって母乳授乳の最中に赤ちゃんから発せられる『母性発生システム解発因子』のいくつかを母親が受け取れないと、システムの一部が起動されず、『母性発達障害』が発生し、母になりきらない『発達障害母』ができ上がる可能性があるのです。
人工栄養の場合には「赤ちゃんが母の乳首に吸いつき、その乳を飲む」という行動がないので、母乳を与えているお母さんに比べてプロラクチン(乳腺刺激ホルモン)の分泌が少なく、母性の発生に加速がかかりません。そのため、えてして動物にエサをやるようないい加減な気持ちになりがちで、果ては、寝ている赤ちゃんにかけてある毛布にシワを作ってビンをずれないようにして、「お前一人で勝手に飲め」というような怠慢なことをやってしまうのです。これでは赤ちゃんに心の栄養を与えることができないのは当然です。こういうことをやってはいけません。
たとえ夜中であっても、いかに眠くても、赤ちゃんに哺乳ビンで授乳する時は、できるだけ母乳授乳の時と同じような状態にしなければなりません。ちゃんと正座するか、椅子に腰掛けるかして赤ちゃんを抱き、その顔をしっかりと見つめながら授乳しましょう。
なお、授乳間隔の一応の目安は三時間ごとです。しかしあまりこだわる必要はありません。スヤスヤと眠っているのに起こして飲ませるのも良くないし、赤ちゃんが飲みたがっているのにまだ時間がこないからといって与えないのもいけません。また、夜間の授乳を無理に止めると指しゃぶりの原因になることがあります。